第70章 風待ち月(19)
神社の祠前に出来た行列。
女生徒が一斉に押しかけ、
「やっぱり、言い伝えは言い伝えかぁ〜〜」
「そりゃそうでしょ。本当に前世の姿なんて映ったら、映ったで怖いし」
皆んな口々にそう言って、その場を離れていく。あっという間に祠の前からひと気が無くなり、私とゆっちゃんは近づく。
大きな祠。
と、言っても大人が一人が入って
ちょっとゆとりがあるぐらいの大きさ。
二人同時はちょっと、狭い。
扉を開けて、先に入ったゆっちゃんの様子を外から見る。
入り口に貼ってあった『羽衣』の解説を読み、鏡の前に立つゆっちゃんにどう?と声を掛けた。
「ちぇっ。これでお姫様の姿が映ったら、秀吉先輩にお姫様様抱っこして貰えたのにさぁ〜」
「でも、それ羽衣って言うより羽織に近いよね?」
鏡の前で制服の上から羽衣を纏ったゆっちゃんを見て、私は首を傾げる。
てっきり細長い帯みたいなの物を想像していた私。ちょっとイメージと違って拍子抜けする。
確かに記事はシースル素材で、羽衣っぽいけど。デザインはよく結婚式とかで招待された人が来ている、ストールの羽織バージョンみたいな感じ。
「残念だったな。てっきり、お前の前世は河童か何かだと期待してたが」
「もう!政宗!女の子に失礼だよ!」
「ひまり先輩の前世は、とても綺麗なお姫様だと思いますよ」
「ふんっ!!」
ゆっちゃんはすっかりご機嫌を損ね、羽衣をケースの中に戻す。そしてお手洗いに行ってくると足をドンドンしながら、社務所の方に歩いて行った。
私は政宗の方に向く。
「ちゃんと後で謝らないとダメだよ!」
「面倒臭せえ奴だ。それより、お前まだだろ?見ててやるから、入れよ」
「期待しています」
「……俺も一緒に入る」
狭い中に無理やり入ろうとする家康を押し返し、私はガラスのケースに祀られた『羽衣』を取り出す。