第68章 風待ち月(17)
ここから先は、神聖な場所。
そう思うと何となく意識しちゃって、
自然と身が引き締まる。
林道を通り、見えた石段。
近くから滝が流れる音が聴こえ、
涼しい風を運んできてくれた……。
思わず、清々しい気分になる。
「先輩のお家の神社とは、また違った雰囲気ですね」
ひっそりと森の中に佇んだ境内。それを見て、腕を貸してくれている先輩に顔を向ける。
歴史の趣を感じる雰囲気の神社。
思わず胸の中から、息が溢れてしまう。
「この花ノ天女神社は、歴史が深い神社だからな」
「確か戦国時代から伝わる、羽衣が祀ってあるって……。織田先生が、バスの中で言ってました」
その祀ってある羽衣を纏い、奥にある鏡の前に立つと自分の前世の姿が映るとか、何とかって言ってた気が……。
(でも、そんな大切に祀ってある物を勝手に纏ったりしたら普通、怒られるよね?)
ひょこひょこ片足を庇いながら石段を登り始めると、先輩は貸してくれていた方の腕を、急に腰元に移動させ……。
ヒョイ!
「わぁっ!!!」
「しっかり掴まってろ」
何の前触れなく、私を横抱きにして登り出した。
「せ、先輩!///降ろして下さい!」
「こら、暴れるな。上に着いたら降ろしてやるから」
ジタバタする私を優しい声で、促す先輩。
(ゆっちゃんに怒られるよ〜〜っ)
そう思って、恐々と視線を横に向けると……。
「秀吉先輩にお姫様抱っこ。まさに戦国プリンス♡」
とりあえず、怒ってはいないみたい。
でも、近くにいた他の生徒からは痛いほどの視線を突きつけられ、ぎゅっと先輩の首にしがみ付き顔を隠す。
(今度は、先輩のファンからお呼び出し掛かっちゃうよ〜〜っ)
「ちょっと!何、抱き着いてんの!」
「秀吉先輩?抜け駆けは禁止ですよ?」
「おい、ひまり。俺の広い腕に移動してこい」
(余計に目立つからやめて〜〜っ!)
追いついた三人。
静かな境内に騒ついた声が響き、
ますます顔が上げれなくなる。
憧れのお姫様抱っこ。
でも、素直に喜べない私がいた。