第66章 風待ち月(15)
鼻先がぶつかり、
視界が真っ暗に変わる……。
直前だった。
「へっ、くし!!」
盛大なくしゃみに
パッと目を開ける。
すると、家康は手を額にあて
しまった!
まさにそんな感じの顔をしていた。私は慌てて自分の身体を手で隠しながら、毛布を掴み家康に被せる。
「ご、ごめんね。私が独り占めしてたから!」
「……俺、泣きそうかも」
「泣きそうなぐらい寒いの!?」
「〜〜〜〜っ。はぁ……」
家康は目まぐるしく表情を変えながら、最後に盛大な溜息を吐いた。
雨上がりの風がない夜。
腕時計を見れば、もう9時過ぎ。
ヒメボタルが乱舞する中、
私は家康の背中の上で幻想的な光景を目の当たりにする。
「綺麗だね……」
「何でひまりは、直ぐに切り返しが出来るワケ?俺、絶対無理だし。一生後悔するし」
家康は小屋を出てから、
ずっと拗ねてブツブツ言ったまま。
「こんな事なら、目に焼きつくぐらい見ておけば良かった」
「まだ飛んでるよ?顔上げてホタル見たら?」
目に焼きつくぐらい。
私がそう言うと、何故かますます拗ねちゃって……。ヒメボタルじゃないし!と今度は怒り出す始末。
ーー思って貰えるなんて
あの言葉の続きは、私にもわからないまま。でも、その内わかる気がする。
そんな予感だけはあった。
「ひまり、携帯は?」
「実は、どっかで落としたみたいで」
防水だから大丈夫だとは思うけど。
明日、ちゃんと探さなきゃ。
「……何故、待ち受けが家康の寝顔なんだ?」
山奥で拾った携帯。
信長は、壊そうか一人悩んでいた。
ーーやっぱ、家康だけの待ち受けにしておこうかな?
ひまりは
二人の寝顔から
家康だけのに変更し、
クスッと笑ったのは……内緒。