第294章 〜ending〜卒業式〜
学園生活最後の卒業式。
今思えば、あっという間に過ぎた気がする。ひまりを振り向かせたくて、必死に頑張っていた頃の俺。
懐かしい気もするけど、ついこの前のような気もする。
って言っても。
まだ必死なのは変わんない。
喧嘩したらそれなりに不安になるし、これから歩んでいく道もバラバラ。
大学に行ったら今より会う時間も取れないだろうし、いくらひまりが行く学校が女子の割合が多い服飾系でも、正直全く心配してないわけじゃない。
(三年間、あんまり成長してないかもね)
ひまりのことに関しては。
春の陽気に、春の風、春の匂い。
今日最後になる制服のボタンを二、三個外して、書物を顔の上に乗せる。
丁度いい芝生の寝心地。
それに睡魔が襲ってきそうになりながらも、俺は狸寝入りをして待つ。
今頃手紙を発見してクスクス一人で笑っているかと思うと、俺まで口元が緩みがちになる。
それから暫く待つと……
(……来たみたいだね)
微かに聞こえた足音。
ふわりと香るトリートメント。
多分、今度こそ叩き起こそうとするはず。
(させてあげないけどね)
今度こそ、間違えない。
ひまりが屈み込んだタイミング。
そっと顔から取られた書物。
ぎりぎりまで寝たふりして……
「ひまり……」
腰元を掴むとグッと自分の方に引き寄せた。
「ほら、やっぱり狸寝入りしてた」
ふにっ。
「いっ!!」
思いっきり頬を抓られ、目を開けると頬を膨らませたひまりの顔をがすぐそこにあって……
「ふふっ。昔の仕返しだよ!」
俺が起き上がって頬をさすると、
次の瞬間にはふわりと咲いた笑顔。