第294章 〜ending〜卒業式〜
一週間前のこと。
弓道部の後輩に、どうしても好きな先輩がいるって相談されて……いつも鈍感って言われる私でも流石にそれが誰のことなのか分かった。
だって、その子の目線の先には家康がいたから。それでも後悔するぐらいなら渡しても良いんじゃないかな……って、ついアドバイスしてしまった。
「手紙だけでも!!」
「読んでくれてるだけでも構いませんので!!」
いざ自分が同じ立場になると、受け取れないことに気づく。
(どうしよう…………)
受け取るのは簡単。でもきっと後で後悔する。本当は私だって本当は……出来るなら家康に受け取って欲しくない。
でもその子の気持ちを考えたら、言えなかった。
「あ、あのっ……本当にっごめ……」
そう思ったら今頃もしかしたら。
居ないのはその為?って考えてじわりと涙が浮かびかける。
熱くなった目頭。
それを手で抑えようとした時。
ふわっ。
(え…………)
突然地面から爪先が浮いて、
身体が後ろに引っ張られる。
背中に温もりを感じて、
腰元に回った腕に力が入るのがわかった。
「……ひまりは俺の彼女。分かってるんだったらさっさっと諦めな」
男子生徒の目がまん丸に。
それは私も同じ。その低い声と甘い台詞のアンバンランスに驚いて目が開く。
「……っとに」
吐息が耳にかかって、
トクンッ……胸が一つ鳴る。
「……ちょっと目を離すとすぐにこれなんだから」
「家康…………」
「俺の気持ち。少しは理解した?」
そう聞かれて、コクコクと頷いた私。
「なら、良いけど。受け取らせない。俺の以外は…………」
(俺の以外……??)
疑問に思った時。
「ひまりーーっ!」
「よっ!」
副部長と秀吉先輩が、
私達の方に向かってくるのが見えた。