第294章 〜ending〜卒業式〜
昇降口。
家康はある物を下駄箱に忍ばせる。
すると背後に気配を感じ振り返った。
「家康先輩……これ。……受け取って下さいっ!」
そこに居たのは一人の女子生徒。サラサラ髪に栗色の大きな瞳。ひまりに雰囲気が似ていると言われていた弓道部の一年生。
家康は差し出された手紙の内容がすぐに分かり、盛大なため息をつく。
「あんた。弓道部だよね?ひまりが居るのに受け取ると思う?」
そもそも片思い中ですら、一切この類の物は受け取らなかった家康。ひまりと付き合っている今なら尚更受け取るはずがない。
「実は………」
しかし、女子生徒はきゅっと唇を噛むと……
「ひまり先輩に相談したんです。好きな先輩がいるって。どうしても手紙を渡したいんだって家康先輩の名前は伏せて……そしたら、後悔しないように渡した方がいいよってアドバイス貰ったんです」
そう告げた。
「ひまりが……?」
家康は目を見開く。
「後悔したく無いんです!お願いします!」
入部した時から家康のことを好きだった女子生徒は諦めずに声を張り上げる。
手紙を持った手は震えていた。
しかし……数秒経っても家康は受け取る気配がない。女子生徒は下げていた頭を持ち上げると、悲しそうな目で訴えた。
「あんたはそれで後悔しないと思うけど。俺がもし受け取ったら、何にも知らずにアドバイスしたひまりが後悔する」
「………………」
「俺は受け取る気もないし、受け取れない」
家康はそうきっぱりと言い放つ。
「わかり……ました……。お時間取らせてしまって……す、いません……でした」
最後の方は涙声。
女子生徒は涙の雫が落ちる瞬間に背を向け外へと走っていった。