第294章 〜ending〜卒業式〜
卒業式当日___
桜の木が蕾をつけ始め、
どこか暖かい風が舞い込む頃。
ハンガーに掛けてあった制服。
それに袖を通せば背筋が伸びる気がした。
机の上に置いてある石碑のレプリカ。
手を伸ばして胸に抱く。
(色んなことがあったな……)
朝からつい感傷に浸りかけた私。
ブーッブーッ。
(あ!家康からだっ!)
一通のメールが時間に気づかせてくれる。私はレプリカを元に戻すと、急いで一階に向かう。
「ひまりー!ちゃんとハンカチ持ったのー?」
キッチンから顔を出すお母さん。いつものエプロン姿じゃなくて、黒のスーツ姿。私は持ったよ!と、返事をするとお母さんの側にいき、じーっと下から上に視線を向けると親指を立てた。
「ふふふっ!お母さん綺麗!そのスーツ似合ってるよ!」
「お世辞言っても何も出ないわよ。ほら、お父さんも見てあげてきて」
「はーい!」
コンコン。
「お父さん?入るよ?」
「おっ!ひまりちょうどいい所に。ネクタイ結んでくれないか?」
お父さんはネクタイを顔の横でひらひらさせる。毎日、お母さんに結んで貰っているお父さんは実はネクタイが結べない。
私はそれを受け取るとクスリと笑う。
「ふふふっ。卒業式にお父さんのネクタイ結ぶなんて、ちょっと変な感じ!」
「そうか?父さんはひまりが入学した時から、決めていたぞ。卒業式は絶対ひまりにネクタイ締めてもらうってな」
「そうなの?……はい!出来たよ!」
「ありがとう」
お父さんの優しい笑顔。後ろにある鏡を見ながら、上手くなったなぁって零す背広を着た大きな背中を私は見て………
コツンっておでこをくっつけた。
「……お父さん。ここまで育ててくれてありがとう」
顔を見て言うのは少し恥ずかしい。
それでも伝えたかった。
私が二十歳になったら話してくれるって織田先生から聞いていた私は、色んな想いをその一言に込める。
思わず泣きそうになると、お父さんの背中がゆっくり動いて……
「何だか、お嫁に行くみたいな台詞だな」
私は大きな腕の中にすっぽり収まった。