第291章 あなたに何度でも(11)
家康は入り口を閉めると、
私をそっと引き寄せ抱きしめた。
満月の光が拝殿の中に差し込み、幻想的な空間を創り出す。
「……寒くない?」
「ううん。あったかい……」
私の頬を包む手が暖かい。首を振れば前髪が乱れて家康がそっと直してくれる。するとその時に私の額にある月のシルシを見て、一瞬驚いた表情を見せたけど何も聞かずにただ優しく……撫でてくれた。
シルシを。
「儀式のこと。神木から聞いてたんだね」
「うん……」
私が片目を瞑ってくすぐったそうに肩を動かせば、家康は「ごめん」って小さい声で謝って、撫でていたそこに口付けを落とす。
「ねぇ……この左目。……どうしたの?」
ずっと気になっていた赤い目。織田先生のルビーみたいな瞳とは違って、深い深い赤色。その瞳は信康くんと同じ色で……
私は心配になってオッドアイになった瞳の中に自分の姿を映した。
(時々、痛がってたみたいだけど……)
すると強い力が背中に加わり、ただ……気にしなくて良いって家康は言う。
「もしかして……向こうで何かあったの……?」
「違うよ。……約束を思い出したからだと思う」
「約束を……?」
私に始めて触れた日から約束を交わしたり思い出す度に実は左目が痛かったって、家康は話すと……
「必ず戻る……そう約束したのを思い出した途端……痛みが引かなくなった」
左目を軽く抑えた。
「えっ……。なら、今も痛いの?」
「今はひまりと居るから。……痛みなんてどっかいってる」
なら痛みがあるってことだよね?
私はそれを口に出すのはやめて、代わりに痛みがちょっとでも癒えないかと思って……左目の瞼に触れる。