第290章 あなたに何度でも(10)
外に出ると息が白くなる。
「儀式は拝殿でするから……」
「儀式……?」
私がそう問いかけると、何故か同世代の男の子は苦味を潰した様な表情を見せた。何もその問いかけには答えてくれなくて、ただ私の手を握り先へ歩いていく。
ーーほら。手……貸して。
手の感触。
それが誰かとは違う気がして……
バッ!!
無意識に振りほどいてしまう。
「ひまり……」
「ご、ごめんなさいっ。その……違う気がして……」
誰と?分からない。
なのに足が止まる。この先に行ってはいけない。そう自分の本能が告げている気がしてそれ以上進むのを拒む。
冷たい風が突き刺さって。
「儀式って一体……何?分からない。何か思い出せそうなのに思い出せないっ!」
私は必死に頭を振る。
シャランシャラン。耳飾りが揺れて、静かな辺りに鳴り響いた。
両手に握りしめたオルゴール。
とても大切な物……何故かそう思えて仕方なくて持ってきてしまった。
「まだ儀式はしないよ。ギリギリまで待つつもりだから……」
「待つって誰を……?一体、誰を……?」
頭に浮かびかけた姿。一瞬の間に沈んでしまって誰か分からない。
「兎に角、風邪引くといけないから行こう」
今度は右手首を掴まれる。
「いやっ!いやっ……!」
拒否反応を起こした私は、思いっきり腕を振りほどいた時だった。
カランッ。
♩♩♬〜……
オルゴールが地面に落ちて蓋が開く。
拾い上げて目元まで運ぶ。
「だぁ……れだ……?」
ーーおはよ。
ほぼ毎日聞いた挨拶。
ーーあぁもう!っとに。
照れ臭そうにそっぽを向いた横顔。
ーーいい加減しないと怒るよ?
眉間に寄った皺。
ーーひまりっ!愛してる……。
愛を囁く甘い声と翡翠の瞳。
「い……え……やす……」
私の中で何かが弾けた。
頭の中で住み着いていた靄が一気に晴れて記憶のパズルがはまりだした。