第290章 あなたに何度でも(10)
ふわりと香る花の香り。
「家康様……抱いて下さい……」
解かれた帯。
白い肌が暗闇にぽぅと浮び上がり、俺はその美しさに思わず見惚れる。
ーー家康……。
しかし、頭の中でもう一人別の誰かが俺に向かって手を伸ばす。
(何かが違う………)
肌の感触。俺を見上げる潤んだ瞳。
俺を呼ぶ甘い声。
誰かに似ているのに似ていない。
そう五感が知らせる。
けれど俺は何かに突き動かされていくように、肌に触れてゆく。
この女が誰かもわからない。
ただ、命令されたように「抱け」と……。
本能とか理性とか御構い無しに、俺の体は女を求めるように動いてゆく。
「あっ、……家康様」
ーーんっ、……家康。
「っ!!」
痛みを通り越して熱を持ったように痛む左目。俺は首を振って無理やりそれを追い出す。
「ぁ、だめっ……」
「そう言ってる割に、ここは潤ってるけど?」
足元を掴んで、大きく広げようとした時だった。
「はぁん!!」
ガッ!!
女が布団にしがみつき、四角い箱の蓋が開いて……
♩♩♬〜……
「……あっ!家康様の大事な物を!すいませんっ」
俺の大事な物……?
転がったそれ。
俺はそれに向かって手を伸ばす。
(これは……オル……ゴール…………オルゴール……?)
そして裏向けた瞬間。
「……ひまり…………?くっ!」
ーー家康っ!おはよう!
ほぼ毎朝聞いてた挨拶。
ーーふふっ。
クスクス笑う声。
ーーどうしてっ!どうしてっ!
泣きじゃくった顔。
ーーい、えやす……
俺を見上げるのは潤んだ瞳と、上気した頬。
「ひまり……。俺は、俺は三つの神器を探しに……」
絵巻物が広がる様に……
一瞬で頭の中に駆け巡った記憶。