第290章 あなたに何度でも(10)
昇った満月。
窓から見える景色をただ目の中にいれる。
(こんなに綺麗なのに……)
ただ……月を見ていると悲しくて苦しくて、じわりと目頭が熱くなった。何かとても大切な事を忘れている。そう思うのに感情の無くなった人形のように……
「これに着替えて……」
言われるまま、渡された白装束に手を伸ばす。
「あと、これも付けてきて」
「指輪……。それとこれは……イヤリング?………少し違うみたいだけど」
「耳飾りだよ。……着替えが終わったら部屋から出てきて」
私はコクリと頷くと、扉を閉めて、ブレザーに手をかける。すると……ポケットに重みを感じて、中に入っているものを取り出す。
出てきたのは四角い箱。
「これオルゴール?…………っ!!」
ズキズキと痛む頭。霧がかったように頭の中がモヤモヤとして気持ち悪くなる。私は思わず口元を押さえてしゃがみ込んだ。
カタカタと震えだす体。
(何か思い出せそうなのに、思い出せない……)
自分の名前はわかる。でも、どうしてここに居るのか分からない。
さっきの人は誰?
今から何が始まるの……?
疑問はいっぱいある。なのに、私はまるでそうしなきゃいけないみたいに制服から白装束へ着替えてゆく。
カチャッ。
部屋から出ると……
「少し寒いからこれ着てて」
ーー寒いから。これ、着てなよ。
もう一人別の誰かの声が重なる。ふわりと被せられた羽織。あったかいのに……鼻に届く香りが何かが違うと告げた。