第290章 あなたに何度でも(10)
満月の夜。
昼間はどこにもいかず、気づけば夜に。
襖を開け、そこに背中を預けながら、外の冷ややかな風を感じながら月の輝きを無心になって見ている内に、俺は何か大事なことを忘れている気がして……
「はぁー……」
深い溜息を吐く。
部屋を見渡せば敷かれた一組の布団。
その隣にはきちんと畳まれた見覚えのない衣装。
そして……
四角い箱。それを見ていると頭がモヤモヤしてきて、つい視線を反らす。
(何か思い出せそうで、思い出せない)
俺は満月に振り返った。
満ちた明るい光。
その光に吸い込まれるように時を忘れ、
寒さも気にせず見上げていると……
「家康様……」
俺を呼ぶ細い声。まるで遠い遠いところから聞こえてくるようなそんな声だった。
いつからそこに立っていたのか、目が合うとにこりと笑い、俺に向かって手を伸ばしてくる。
そしてゆっくりと唇が動いた。
「今夜こそ抱いて下さい」
俺はその言葉に誘われるように、手を取り自分の方に引き寄せる。まるで、そうなる事を体が望んでいるような気がして……
ごく自然に……。
「あんたの手。冷たい」
「ふふふ。なら、あっためて下さい。沢山……」
ーーふふっ。家康、あったかい。
「っ!!!!」
「どうされました!?」
重なるもう一つの声。左目に走る激痛。その痛みは収まらず、俺に何かを告げるようにズキズキと繰り返す。
「……何でもない」
やせ我慢なんてするつもりないけど、そう答えるしかなかった。
「家康様!?左目が!」
「……気にしなくていい」
けれど!その言葉を遮るように俺はそのまま横抱きにして、部屋に運ぶ。