第288章 あなたに何度でも(8)
せめてオルゴールだけでも、
繋がっていて欲しい。
(家康……)
満月までのこり三日。
時間を忘れるように夢中で編んだマフラーも昨日、完成した。可愛くラッピングをして、机の上に置いてある。
一番におめでとうって言いたい。
「いってきまーす!」
私は玄関で大きな声を出して駆け出す。白い息が空へと昇っていく様子を少し見つめた後、ぽつりぽつりと通学路を歩く。
儀式をしなかったら?私はもうこんな風に過ごせないのかもしれない。毎晩、夜になると額が熱くなって月のシルシが浮かび上がってくる……
昔は綺麗で大好きだったのに……今、月を見ていると何だか呼ばれているような気がして……怖くて目を背けてしまう。
(でも私は……)
お父さんとお母さんの事を考えると、苦しくなる。
それでも家康以外に触れられたくない。
(ごめんなさい……)
家康がどんな思いで探してくれてるのかは分からない。けれど、私の心はもう決まってる。
「副部長!!型を一度見て欲しいんですけど……」
「いいよ!ちょっと待っててね!」
こんな風に生活出来るのもあと少しかもしれない。だからこそ、一日、一日を噛み締めたい。
「ゆっちゃん!バレンタインなんだけど、ガトーショコラにチャレンジしようかなって!」
「良いんじゃない!私は、今回和風のチョコにしようと思って!抹茶味とかさ!」
「いいね!!政宗きっと喜ぶね!」
部活終わりの更衣室での他愛のない会話。いっぱい笑って、後輩の恋話に耳を傾けて、また笑う。
一秒でも無駄にしないように。