第288章 あなたに何度でも(8)
夕方、生徒の下校を見送る一人の影。
真冬の今は日が暮れるのは早い。例え夕方の六時前でも辺りは真っ暗。
非常口の緑色のランプだけが光った職員室。そこで電気も点けずに、信長は窓から今にも雪がちらつきそうな空を見ていた。
「恐らく、ひまりは儀式を拒むだろうな」
「はい。俺もそう思います」
それに答えたのは同じく職員室に居た光秀。二人はどちらともなく窓に寄りかかり、ネクタイを同時に緩める。
「家康とひまりには世話を焼かされる」
「……そうですね。思い返せば、春から色々とありました」
「だな。…………まさか天女とはな」
珍しくぽつり声を落とした信長。シュルリと完全にネクタイを外すと、自分の席の椅子に向かって投げ、頭を窓にくっつけ、両手をズボンのポケットに入れると、静かに目を閉じた。
「しかし、今回はどうしてもやれん」
「家康が戻る保証も現時点では……しかし、佐助の話では満月の夜にワームホールが出現するのは間違いないようです」
「…………意図的だとは思わんか?」
「確かに。……都合が良すぎると言いますか……わざわざ儀式の日に合わせてくる所が……」
二人は神妙な顔つきでそのまま口を閉ざす。ワームホールはひまりが呼び起こすと信康は言っていた。佐助もひまりの心が関係しているとも……
しかし、もし誰かが意図的に呼び出していたら。
そんな可能性を二人は考え……
「あの、使い魔が怪しいな」
「そんな力がありそうな者は他にいないでしょうね」
もう一度、寒空を見上げた。
(雪降ってきた……)
カチカチカチカチ……
ひまりはカーテンを閉めると、腕時計を頬にあてる。
(必ず……帰ってきてね……)
儀式の日は刻々と近づく。