第287章 あなたに何度でも(7)
森林の新鮮な空気を吸い込む。
しかし湿った空気は辺りを霧がからせ、昼間なのに薄暗い。まるで迷い込んだら二度と帰れなくなるような森を突き抜け小雨が降る中、辿り着いたのは……
(まさかここ。花ノ天女神社……)
方角の位置的にもあってる。鳥居から境内に向かっている石段のつくり。
それには見覚えがあった。
「こっからは馬を降りてくぞ」
俺たちは馬を木に括り付けると、鳥居を潜り、石段を登ってゆく。
「今度の戦は光秀と一緒だからな。しっかり願掛けしとかないとな」
拝殿の前で鈴を鳴らして、念入りに参拝する豊臣秀吉の隣で俺は目の前でキラッと光る何かが見えて、参拝そっちのけで中を覗く。
拝殿の中に飾れた大きな鏡。
(あれは、真実の鏡!?)
間違いない。花ノ天女神社に祀られたものと同じ鏡だ。
となるとやはりここは……
「お、おいっ!家康!中に勝手に入ってどうする気だ!?」
「ちょっと確認したいことが……」
取手に手をかけ、草履を脱ぐと俺は拝殿の中に足を踏み入れる。神聖な場。そう思うと自然に背筋は伸び、一歩、一歩、鏡に近寄った。
鏡に手を伸ばして触れる。
(ひまり……)
今頃、学校に行ってるだろうか。
鏡に触れながら、想うのはひまりのこと。泣いてないかそればっかりが気になる。
目の裏に浮かんでくるのはいつだってひまりの笑顔。耳を澄ませば今にも聞こえてきそうな、俺を呼ぶ可愛い声。
鏡の冷たい感触の向こうにひまりのぬくもりを探しながら、俺は目を開ける。
時が離れていても……
こうして同じものを通じて繋がっている気がして……俺は背後から名前を呼ばれるまで鏡の中の自分を見つめた。