第286章 あなたに何度でも(6)
「あ!ごめんね!今、退くから!」
襟元を直して、ポーチの中にリップを仕舞い急いで動こうとすれば……お父さんは私の腕を後ろから掴んだ。
「……家康くんと何かあったのか?京都旅行から帰ってきてから元気がなかったが」
「…………」
思わず口が固く閉じてしまう。
「……詮索はしないつもりだ。ただ、家康くんが織田先生の所にいるって聞いてね。ちょっと気になっただけだ」
そんな顔させるつもりはなかったと言われ、鏡を見れば浮かない顔をした私がそこにいた。
「家康は大事にしてくれてるよ」
「……そうか。何だか最近、ひまりがグッと大人っぽくなった気がしてね。ちょっと、父さん焦ったよ」
なら、良いんだ。肩に置かれた手はあったくて私はくるりと振り返ると……
「私は私だよ。まだまだ高校生!」
自分で出せる満面の笑顔を向けた。
お父さん。
心配してくれてありがとう。
例え、本当の子供じゃなくても……
ここまで育ててくれたこと。
愛情いっぱい注いでくれたこと。
私は何があっても忘れない。
心の中でしか言えないお礼。
それが歯がゆくてどうしようもないけど……
「ど、どうしたんだひまりっ!」
「ふふふっ。お父さん大好き!」
大きな腕の中で……
私は暫く目を閉じた。