第286章 あなたに何度でも(6)
月を見ていると何故か悲しくなる。
自分が天女なんて、未だに信じれなくて……
でも、毎晩見る不思議な夢。
ーーふふっ……何処にも行きませんよ?だってこの後、素敵な場所に連れて行って下さるのでしょ?
私は何も纏わない姿で笑う。
そして次の瞬間には……
ーー抱いて下さい。
腕を絡ませ、潤んだ瞳で誰かを見上げる。
私はずっとこの日を待ち望んでいて……肌に触れられる日々がどれ程にも長く感じていた。
そして夢は途切れて……
(まただ……)
目が醒めると涙が自然と流れてくる。
さっきまで自分がそこにいたような感覚に陥り、私は押し寄せる切なさを封じ込めるように、自分の体を自分で抱く。
(顔……洗いに行こう……)
制服に着替えると私は一階に向かう。
顔を洗って、クイッとブラウスの襟元を開ければ……そこには家康が京都旅行で付けたシルシが。
(薄っすらだけどまだ残ってる……)
でも、今にも消えそう……
洗面台の鏡を見ながら首筋に触れると…………家康のこのキスマークを付けた時の強い思いを感じて、私は唇をキュッと噛む。
あの時、
どんな想いでこれを付けたんだろう。
あの時、
どんな想いで私を抱いたんだろう。
想像するだけで泣きそうになるけど、家康が戻るまで泣かないって決めた。
カチカチカチカチ……
身につけた時計に唇を寄せる。
ちょっとサイズは大きかったけど、家康が側にいるように思えたから。
「ひまり」
「お父さん……?」
シェーバーを片手に、
私の背後に立ったお父さん。