第65章 風待ち月(14)
気持ちだけが焦り、
雨でどんどん体温が奪われていく。
足がズキズキと痛み、
(あっ……!)
手が滑る。
「っ!!」
少しでも体重が掛かると、
激痛が走った。
真っ暗で、不安で、怖い。
懐中電灯も滑り落ちた拍子に、壊れたのかな……。頼りない点滅を繰り返す。
(何で私は、こんなに弱いんだろ……)
雨粒か涙粒かわからないモノが、目に浮かんで真っ暗な視界がぼやけていく。
ーーだから、泣くな!
懐かしい家康の声が、まだ耳に残ってる。小学校一年生の遠足。
あの時も確か……。
ーーわぁっ!お花いっぱい!
春の陽気の暖かい日。
野原の端っこで、一人夢中になって花を摘んだ。担任の先生が結婚するって聞いて、プレゼントしたくて。
シロツメグサの花冠を。
花がある方に向かって、しゃがみ込んだまま、どんどん奥に……。
ーーあれ?皆んなは?ここ、どこ?
周りを見渡しても、自分の背より高い茂みしか見えなくて。迷路みたいに進んでも、進んでも、一向に変わらない景色。
ーーうっ……。
遂に私は泣き出した。
もう二度と皆んなに会えない気がして。もしかしたら、もう家に帰れないんじゃないかと不安で仕方がなかった。
そんな時、近くの茂みがガサゴソ動いて、
ーーひっくぐっ…。ぐすっ。
ーー泣き虫。みーっけ。
木の枝で茂みをかき分け、現れた家康。
ーーいっちゃん!
ーーだめだろ!勝手にどっかいったら!
ーーご、めんな…さい…。せ、んせいに、お嫁さんの……うっ。ぐずっ。
安心した私は、余計に涙が止まらなくて……。泣きながら、どうして居場所がわかったの?って聞いたら、家康は少し照れ臭そうに頭をポリポリ掻いて、
ーーひまり見つけるの、おれの特技だから///
ーーぐすっ……。とくぎ?
ーーだから、泣くな!
ーーう、ん。…ありがと!
やっと泣き止んだ私の手を家康は握って……。木の枝を刀のように振り回しながら、皆んながいる場所まで連れてってくれた。