第65章 風待ち月(14)
いっちゃん。
小さい頃は、本当に女の子みたいに可愛かった家康。
だから、小学校低学年まではずっとそう呼んでた。
(いっちゃんなら、私見つけてくれるかな……?)
泣いたら怒られるかな?
泣いても助けに来てくれるかな?
雨でキャンプファイヤー。
きっと中止になってる。
それが、ちょっと嬉しいなんて言ったら……。
怒られるかな。
築城さんが家康の彼女になったら、ちゃんと心から祝福してあげれるのかな。
出来なかったら、もう一緒にいられないのかな。
「……っく」
力が入らない。
足も手も感覚がもうない。
嫌がらせを受けても、一緒に居たかった。家康には絶対、知られたくなくて……。自分のせいだって責めて欲しくなくて……。
きっと
責めて、責めて……。
私から離れてくのが一番、嫌だった。
「……い、っちゃん」
そう呟くのと同時に、手が離れる。
身体が後ろに傾くのを感じて……。
ぎゅっと目を閉じた。
「ひまり!!」
いっちゃん?
ううん。このおっきい手は……。
家康の手。