第283章 あなたに何度でも(3)
俺のお姫様だと思っていた。
何度も声をかけようとした。
けど、徳川の隣で笑うひまりを見て違うと思った。ある前世の記憶が邪魔して……結局、俺は踏み切れずにいた。
二人を引き離したのは、心を強くする為。
ーー花が満開に育った時。それは、二人にとって別れを意味する。今度、抱いたらそれが分かると思う。
ーーその証拠に……ワームホールを呼び起こす。決めるのは徳川……君だよ。このまま一緒にいれば、間違いなく大変なことになる。
あのクリスマスの日。
本来の目的だったことを俺は告げた。
二人を引き離す為、あの話をする為、俺は待ち合わせ場所に向かった。
あぁ言えば徳川はひまりを抱き、距離を置くだろうと。そして俺の元に来て、宿命を背負うだろうと。
ーー俺が剣を探しに行く。
ーー戻ってこれる保証はないよ。それでも行くなら……俺は止めない。
既に左目に異変があった時点で、俺から徳川に宿命は変わっていたのかもしれない。
(………遊園地楽しかったよ)
「家康とね、付き合って一ヶ月頃。私、キス禁止令をだしてね。それから、色々あって……でも不安になるのは大好きだからだって、一緒に居たいからだって気づいて……二人で幸せにならないと心は満ち足りないんだなぁって思ったの」
鏡の前で胸を押さえ話すひまりの背後で、俺は心の中で呟く。徳川が待ち合わせ場所に来なくて、予想外の展開に一瞬焦りを感じたけど、お陰でいい思い出ができた。
「心って月の満ち欠けみたいに……」
自分の心にしきりに話しかけるひまり。それに返事をするように、真実の花はまるで命があるように鏡の中で花びらを揺らす。
(綺麗に咲かせてくれ……)
降り続く雨……
「ひまり。そろそろ中に……」
「うん。もう少しだけここに居てもいい?」
くるりと振り返り傘が揺れる。きゅっと、持ち直した手には大切そうに握られた腕時計。
徳川に贈ったクリスマスプレゼントだと言っていた。
「家康に会うまでに、早く元気になりたいから」
時を刻まなくなった文字盤に、
そっと触れる横顔。
息が止まるぐらい綺麗だと思った。