第282章 あなたに何度でも(2)
シャキッ……
喉元に光ったのは鋭い刃。
「貴様……寝ぼけているのか?」
「……っ!?」
突きつけられた刀に俺は言葉を失う。織田信長は短気で荒々しい性格だと言われている。俺はゴクリと唾を飲み、返答に悩んだ。下手な嘘もこの様子だと通じない。だからと言って正直に話して理解して貰えるとも思わない。
「何故、野原にいた?」
「………………」
「それとその身なりは何だ?」
「………………」
織田先生と同じ顔が近づく。
グッと押し付けられた刀。
「答えれぬ事情でもあるのか?」
その時だ。
スッと部屋の襖が開く。
「家康様?失礼します…………っ!?どうなさったのですか!?」
慌てて駆け寄って来た女。
その声はひまりとそっくりで、俺は突きつけられた刀も忘れ視線を動かす。
「おやめ下さいませっ!」
「この馬鹿が寝ぼけていたからな、目を覚ましてやっただけだ」
刀がスッと動く。俺はやっと呼吸が出来た気がして、ゆっくりと息を吐き出した。
「儀式前だ。たるんでおるのも大抵にしろ」
(……儀式?一体何の……?)
疑問に思うのが先か後か……
織田信長は刀を鞘の中に仕舞うと立ち上がり……
「少し熱があるようだからな。……今宵は看病でもしてやれ」
さっきの威圧的な声より少し優しさが織り混ざった声。織田信長は女にそう言って静かに部屋から出てゆく。
「………大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
女に注いだ月明かり。
次第にその姿をくっきりと映す。
「…………ひまり……」
何でここに……出かかった言葉。
それを呑み込む。理由は一つ……ひまりと唯一違う所を見つけたからだ。