第281章 あなたに何度でも(1)
最後に見た家康の背中が、
目の奥に浮かぶ。
「そ、んなっ……なら私はお父さんとお母さんの子じゃないってこと?」
神が与えた命って、つまりそういう事?
「家康は本当に戦国時代に……嘘よ……嘘だよっ」
震える手。私は口元を押さえると信じられないとばかりに首を振った。ガンガンと痛む頭はそれを拒み、受け止められない現実が覆いかぶさり、私の体力を削ってゆく。
夢であって欲しいと願う自分がいて……
(そんなっ………)
「今から話す。落ち着いて聞け……」
それから私は織田先生から京都旅行中から家康が一人で苦しんでいた話。お父さんとお母さんから聞いた話。さっきの話を詳しくもう一度、一つずつ順番に私が少しでも混乱しないように、丁寧に話してくれる。
「他の者は今、真っ二つになった石碑の様子見に行っている。佐助は石碑に埋まっていた石を調べると言っていた。……これはお前の両親から預かった物だ」
先生に渡されたのは、花ノ天女神社と書かれた桃色のお守り。
「例え天女であっても、貴様の両親はあの二人だけだ」
「ひっ、……く……そんなっ。だって…だって……」
織田先生はあの京都旅行のように、私が泣き止むまでずっと頭を撫でてくれる。好きなだけ泣けって、思いっきり泣いて、笑顔を取り戻せって。
どれぐらい泣いただろう。
泣き腫らした瞳がじんじんと痛む。
「必ず、家康は戻る。……約束したではないか」
自分ばかり辛い思いをしている。
ずっとそう思ってばかりいた。
今までの家康の言動が全てが、
私の為だったんだって思った時。
嘘みたいに涙は引っ込む。
「……私に出来ること。教えて」
気づけば、信康くんにそう尋ねている自分がいた。もう泣いてばかりいられない。