第281章 あなたに何度でも(1)
信康くんが立ち上がる気配を感じる。
「ある日、不思議な夢を見ました。儀式に必要な三つの神器の一つ、永遠の剣は戦国時代にあると。だからこそ、俺は心の花の成長を急がせた。ワームホールを呼び起こす為に」
額に指先が当たる。
何かをなぞるようにゆっくりと動く。
「わざと、家康と距離をおかせて心を強めたのか……」
「ひまりはまだ完全な天女になっていない。三つの神器を揃え、儀式を行えば普通の女の子に戻れるかもしれない……そうだよな?翠玉、天鏡?」
「必ずしもとは言い切れないけど……」
「その可能性は高い」
(儀式って一体……)
ピクリと動いた指先。
それは額にあてられた指先じゃなくて、私の指先。
「い……え……やす」
やっと出た声。
それはこの場にいない家康に向けたもの。
「…………無理をするな。少し熱が出ている。お前の両親には連絡してある」
「ここは……一体……」
「ここは花ノ天女神社。俺の家だよ」
「信康くんの……家康は……家康はどこにっ!?」
起き上がろうとすれば暫く寝ておくようにと先生に言われる。でも、私は必死に腕に力を入れて体を起こす。すると、すぐ側で複雑そうな表情を浮かべ、パッと私の額に触れていた手を離す信康くんがいた。
頭がクラクラする。
思わず自分の額に手を当てれば、そこには何かの印が刻まれていて、私は慌てて人差し指の感触を頼りにその印をなぞった。
「月のシルシ?………うそ……」
だったらさっきの話は全て本当ってこと?家康は本当に戦国時代に……。
そんな事が本当に……。