第280章 天邪鬼の愛〜真紅〜(22)
ゴロゴロゴロ…………
空に唸るような雷音。
あんなに大嫌いだった雷さえも今は、気にしている暇なんてない。
「ひ、っく…………」
無我夢中で振り返って欲しくて、何か言って欲しくて腕を揺さぶるのに、家康はずっと黙ったまま。
どれぐらいそうしていただろう。
もう寒さで体の感覚はなくて、冷たいのか寒いのかも判断できないぐらい。
まだ夜になるような時間帯じゃないのに、空は黒い雲に包まれていて、辺りは真っ暗。
ザァァァァッ……ァァァッ……
「…………分かった」
私はそう言って、ぐしょぐしょになった地面をずるずると一歩、二歩と後ずさる。
「でも…………」
忘れたりなんかしないよ。
全部なしになんてしない。
私は……
「何度だって…….」
ゴロゴロゴロゴロッ…………
「何度だって家康に恋をするからっ!!」
その時だった。
空が稲光してドォーンッ!と石碑に雷が落ちる。そしたら額が急に熱くなって、ぼわっと淡い光が集まり辺りを照らす。
そして……
「…………ありがとう」
背中に伝わったぬくもり。
(え…………)
驚いて見開いた瞳。
すると目の前にいる家康がゆっくりと振り返る。
「…………騙してごめん」
ズリッと金色の髪が取れて……信康くんの申し訳なさそうな顔が瞳に映った。
(なら、後ろにいるのは…………)
「………嘘でも言えなかったんだ」
本当の家康。
ゴォォォォッ!!!
「きゃぁぁっ!!」
すぐ真横で落ちた稲妻。