第280章 天邪鬼の愛〜真紅〜(22)
朝、登校すると下駄箱に入っていた一通の手紙。私はその便箋を見て、すぐに家康だって分かると……
ガサガサッ。
急いで開いた。
『放課後、石碑で待ってる』
その文面を見て嬉しさが込み上がる。どんな話をするのとかそんな不安はなくて……やっとちゃんと会える。やっとちゃんと話が出来る。
(家康……)
そう思って、私は便箋を胸に大切そうに抱いた。授業中もずっとそわそわして、勉強どころじゃなくて……
でも、家康の席は空いたまま。
それが唯一気になったけど、それでも後三限、後二限、後一限って指折り数えて、放課後を迎えた。
外はしとしと雨が降っていたけど、私は傘を開くのももどかしくて急いで裏庭に向かう。
なのに……
ザァァァァッ……
「今……な、んて…………」
強まった雨が聞き取りにくいさせる。制服はずぶ濡れで、スカートの端から雫が次から次へと地面に落ちて、私がキュッと端を握れば更に雫が流れるように落ちた。
「ねぇっ!今、何てっ……」
「だから!別れて……欲しいって……言ったんだ」
ザァァァァッ…………
(う、そ……だよね……)
雨音が邪魔して違う言葉を耳に届けてるんだよね?
そんなの嘘だよね?
「どうしてっ!どうしてっ!」
もう雨か涙がわからない物が口に入り込んで、私は叫ぶ。背中を向けたままの家康は少しも振り向いてくれない。
私は走り寄って腕を揺さぶる。
「何で急にそんなことっ……そんなこと言うのっ!?」
「………………」
「ねぇっ!答えてよっ!そ、んな……急に一方的に言われたっ……て……」
例え理由を聞いた所で、はいそうですかなんて……言えるわけがない。でも、いきなりそう言われたって……
「家康だけ……な……んだよ。私をこ、んなに辛くさせるのは……悲しく……させるのはっ!」
楽しくしてくれるのも。
幸せにしてくれるのも。
全部、家康だけ。
あの京都旅行からずっと胸がぽっかり空いて、苦しくて、息が詰まって泣いてばかりいた。
でも、それだけ家康が好きな証拠。
そう思えば少し辛いのがラクになったんだよ?