第277章 天邪鬼の愛〜真紅〜(19)
そして家康は___
信長の予想通り駅前でバスに乗り込み、信康の元へ向かっていた。今朝、掛かってきた電話。知らない番号からだったが、すぐに信康と分かり電話に出たのだ。
ーー見せたいものがある。
たったそれだけの短い言葉。
しかし登校するのを悩んでいた家康はすぐに行き先を変え、花ノ天女神社行きのバスに。ガタガタと揺れるバスに乗りながら、ひまりとの思い出を辿り、時折口元を緩めたり、時折表情を沈めたりして……
(ひまり……)
窓から見える雪景色を眺めていた。
赤い鳥居をくぐり、境内に踏み込めば……
神秘的な空気が張り詰め……
「……こっちだ」
すぐさま信康に案内され、祠の前に移動。
「今の徳川なら見えると思うよ」
そこには、一枚の鏡。そしてケースに大切に保管された羽衣。
「この鏡は確か前世が……」
野外活動の時。
この鏡の前に立ったひまりの事を思い出した家康は、ゆっくりと鏡に近づき自分の姿を映す。
そこには、いつもと変わらない制服に身を包んだそのままの自分の姿。
「羽衣も羽織った者の前世を映すとも言われているが、本来はこの鏡は真実を映す鏡。……左目だけで見ると良い」
「左目だけで……?」
家康は後ろに振り返り、信康の顔を見るとまた顔を前に戻して、そっと右手で右目を覆う。
「っ!……これは花……」
「真実の花。……ひまりの心の花だよ」
鏡の中で満開に咲ききった真紅色の花。
一見綺麗な花だったが、花びらはしおれ、何処か色艶のないもの。
まるで今のひまりの心情を表すかのように…………。
「俺は花の成長を急がせた。儀式の前までに三つの神器を集めるために。……これから全てを話す。翠玉、天鏡、姿を見せてやって」
「「了解ーっ!」」
「なっ!?」
家康は夢かとばかりに驚く。
自分と全く同じ顔をした少年……いや、狐の化身が突然、頭上から舞い降りたのだ。無理もない。