第277章 天邪鬼の愛〜真紅〜(19)
家康の話によると、ひまりが呼び起こすと言っていた。
「天女……まるで……」
佐助は以前考えていた仮説に思考を巡らせようとした時だ。コンコンコンッ。ノックが三回、扉の向こうから聞こえた。
それは、光秀と秀吉からの合図。
「……入れ」
「「失礼します」」
二人は一礼すると中に入ってくる。佐助はサッとパソコンの前から退くと、長机の横に立ち、信長に席を譲る。信長はゆっくりとした動作で椅子の前まで移動すると、足を組んで座った。
「家康はどうした?」
「それが昨日、家に帰ったはずなのですが連絡が取れなくて。今日も学校に来ていないようです」
「………ひまりに会わないようにする為か」
光秀は白衣のポケットに手を入れ、窓に近づく。秀吉は机を挟み信長の正面に立つと、冬休み中の家康の報告をした。どこか思いつめた様子で、ひまりと出くわすのを避けるように外にはあまり出ずに過ごしていたと。
「……信康も来ていないようです」
「会いに行った可能性が高いな。あいつは自分で何とかするだろう。問題はひまりだ」
信長はさっき見たひまりの様子を思い出しては、深刻そうに眉を引き寄せた。ただ黙って話を聞いていた佐助は、ある資料を手に取ると、口を開く。
「あくまで俺が考えた仮説ですが……聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」
重いカーテンが閉まる。
光を遮り、薄暗くなった室内で信長、光秀、秀吉の三人は佐助の話に耳を傾けた。
「まずは、これを見て下さい」
パソコンの画面に映された亀裂が大きく入った石碑の写真。
話を聞き終わった後、三人は重く口を閉ざした。
新月まで残り一週間。
それぞれが動き出す。