第272章 天邪鬼の愛〜真紅〜(14)
衣装を着て、最後に紅を差す。
「凄い……自分じゃないみたい」
「きっと彼氏さん驚きますよ!」
チラッと鏡ごしに隣を見れば、同じように変身した女の子が浮かない表情を浮かべていた。
(喧嘩でもしたのかな……何か元気ないみたいだけど)
ちょっと気になって見ていると、鏡ごしにバチっと目が合う。
「凄い綺麗ですね」
「あ、ありがとう!貴方も凄く綺麗だよっ!」
「私なんて……はぁっ。きっと、よし君も貴方を見たら……」
更に浮かない表情を浮かべた女の子は、ため息を大きく吐くと、じっーと鏡の中の自分を見つめていた。こんな状態で撮影大丈夫なのかな……。心配になった私はお節介は承知の上で何かあったのか尋ねようとした時。スタッフさんに呼ばれ、結局聞きそびれてしまう。
「どうかな……??」
「どうかなって///ちょっと胸元空きすぎだし///」
耳まで真っ赤になった家康。
綺麗だよとは言ってくれなかったけど、横目でチラチラと見てきて、私はクスクスと笑う。胸元空きすぎって言ったけど、それは家康も同じ。深い緑色の着物に胸元が大きく肌けていて、逞しい胸板が覗いてドキドキする。
「ってか、そんな姿。他の奴にもみせる気?」
「他の奴って……カメラマンは女の人だって言ってたよ?」
そう言いながら小首を傾げた時。家康の背後にある扉から男の子が出てくる。すぐにあの女の子の彼氏だって分かった私はペコリと頭を下げると……
「へぇ〜……あんたの彼女。めっちゃいい女〜」
グッと急に近づいてきたかと思えば、舐めるような視線で身体の上から下に見られて、悪寒が走る。
ゾワッ。
私は咄嗟に身を隠すように家康にしがみ付くと……
「…………じろじろ見ないでくれる」
低い声が頭上から聴こえて、ぎゅっと強く抱き締められた。