第270章 天邪鬼の愛〜真紅〜(12)
この神社には古い言い伝えがあった。
時は約五百年前。
天邪鬼の神がこの神社を守っていた。元は天界に住む神。しかし、天女の命を絶った事から罰を受け、地上に降ろされ、金色の瞳は神の力を失うごとに赤く染まったと……花ノ天女と名付けられた由来は、かつてその天邪鬼な神が愛したのが、花の生まれ変わりを持つ天女だったからと伝えられていた。
「長い間、この神社には女子しか生まれんかった。しかし、わしの娘は男の子を授かった。それが信康だ」
信康の祖父は、部屋の棚の上に飾らせた写真立てに視線を向け、眩しそうに目を細める。五百年後に生まれてくる男児。それはその神の生まれ変わりになると……言われていた。
「信康が生まれた年。この神社にある祠に花のように可愛らしい赤ん坊が羽衣のような物に包まれ、泣いておった。身元を記された物は何もなく、わしの娘は自分が育てると……」
「まさかっ!その赤ん坊がっ……」
思わず言葉を遮った佐助は信じられないというように目を見開き、その隣で信長はただ静かに険しい表情を浮かばせる。信康の祖父は口を一文字に結んだ後、その先を話すのを悩むように目を泳がせたが……守りをちゃぶ台の上に戻しては、再び口を開く。
「娘は病弱だった。信康を育てるのもままならない程に。そしてその赤ん坊をある夫婦に託した……毎日この神社に参りに訪れ、子を授かるように祈っていた夫婦にだ」
この守りは自分の娘が願をかけた物だと話す。
『幸せになるようにと……』