第270章 天邪鬼の愛〜真紅〜(12)
その頃、花ノ天女神社には……
信長と佐助の姿があった。
境内に入り、二人は玄関に向かう。
病に伏せていると聞いた、信康の祖父。家庭訪問という理由で訪れたのだが……
「……やはり出ないか」
しかし、もう一度呼びかければ信康が留守にする間、容態を見るように頼んでいた医者が出迎える。歳は五十ぐらいだろうか。眼鏡をかけ、いかにも医者らしく清潔感あふれる中年男性だ。
「……神木信康の担任の者だ。……少し、話をさせて貰えぬか」
「そうですか。信康くんの……今は容態が安定していています。手短でしたら話せるかと」
奥座敷に案内された二人。
「待たせてしまったの……」
暫く待てば、ゴホゴホッと咳き込む声が聞こえ、背が曲がった、骨と皮ばかりの痩せ細った一人の老人が現れる。医者には席を外してもらい、手短に話を済ませようとした信長はある物を取り出すと、ちゃぶ台の上にそれを置いた。
「………………」
「この守りはここの物だな」
信康の祖父は眉ひとつ動かさずに、それを手に取った。
「確かにこの神社の守り……これを持っていると言う事は、ただ訪問に来たわけじゃなさそうじゃの」
信長達が訪ねてきた理由が別の事だとわかり、天井を仰ぐように暫しの間見つめ……しわくちゃになった瞼を塞ぎ、口を動かし始めた。