第270章 天邪鬼の愛〜真紅〜(12)
流れた沈黙。
信長は手を伸ばす。ひまりの両親から預かった守りを大切そうにそっと握りしめてはますます険しい表情を浮かべた。
「十七を迎える日。ある儀式をするのがこの神社のしきたり。……それが、信康の宿命」
「しきたりとは一体どんなっ!!三つの神器と何か関係があるのですか!?」
「三つの神器……ごほっ、ごほっ!」
信康の祖父は苦しげに顔を歪ませ、止まらない咳に背中を丸め、ガシャンッ!ちゃぶ台をひっくり返して倒れる。その音を聞きつけた医者は慌てて座敷に入ってくると、祖父の体を抱きかかえ、背中をさすった。
「今日はこの辺でお引き取りを。もうすぐ信康くんが帰ってくる頃なので、彼に心配をかけさせたくはない」
信長と佐助は会釈をして立ち上がると、写真立てに視線を移す。優しそうな両親と、その間でまだ五歳ぐらいの信康が笑っている写真。
その写真を見て二人はなんとも言えない感情に浸り、その場を後に。
「……ついにバレたか」
「まぁ、良いんじゃねーか。儀式のことは分かってないみたいだしよ」
姿を消して、座敷の中にいた翠玉と天鏡。同じように写真立てに視線を移しては、口を紡ぐ。
この真実をもしひまりが知れば……
信長はただ重く口を閉ざすと、車に乗り込み、静寂に包まれた山の中……エンジンを吹かした。