第267章 天邪鬼の愛〜真紅〜(9)
耳に掛かる熱い吐息。
「……俺じゃ駄目?」
ドクンッと脈打つ心臓。その声が、家康にそっくりな気がして……
「ひまりと乗りたい」
脈打つ鼓動に追い打ちをかけるように、甘い囁き声が耳に届く。
そっくりなのに……。
でも……
(違う…………)
髪の匂いも、私の腕を掴む力加減も家康とは全然違って……
「離して……。やっぱり嘘は良くないから……」
そんなの言い訳。
本当は家康と乗りたいんだ。
携帯の電源切ったのは、また嘘吐かれるのが嫌だったから。でも、本当は信じてる。何かの間違いだって。約束も忘れてないって……
どこかで期待してた。
必ず……
必ず……
ーーや、く、そ、く!だよ!
家康はここに来てくれるって。
「も……う……帰ろう」
泣きそうになりながら振り絞った声。
なのにいつの間にか……
「はい!次の方、ここに来てください!」
回って来た順番。
「ごめんなさい!やっぱり……」
ゴンドラから降りてくるカップル。
ぎゅっ。
「…………もしかしたら、俺が幼馴染になっていたかも……恋人になってたかもしれないのに……」
(え…………)
信康くんの言っている意味がわからなくて、思わず顔を上げた時。
グイッ!!
強く引っ張られた腕。
「乗りますっ!!」
バタンッ!
「では、空の旅をお楽しみ下さい!」
閉められたゴンドラ。
「ひまり……」
背中に広がったぬくもりに……
私はただ体を硬直させた。