第266章 天邪鬼の愛〜真紅〜(8)
そして午後三時。
皮肉にも家康が行こうとしていたコーヒーショップで、電源を切った携帯をひまりはじっーと見ていた。
「もう、大丈夫だから。急に泣き出してごめんね。信康くん、何か用事あったんじゃないの?」
すっかり冷めたカフェオレ。ようやく一口、口に運ぶと、何も聞かずに静かにただ側に居てくれた信康に申し訳なさそうに眉を下げる。
「いや。折角だからクリスマスツリーでも見ようとたまたま通りがかっただけだから。気にしなくて良い」
「そっか…………ねぇ!それなら今から遊園地行かない?」
ひまりは遊園地の中に大きなクリスマスツリーがある事を説明すると、どうかな?と、信康に尋ねた。
ここ数日、塞ぎ込んでいた気持ちを少しでも晴らしたかったのかもしれない。一人でいればまたモヤモヤと考えてしまうことを恐れ、その裏腹に心の何処かでは家康が来てくれるかもしれないと期待があったのかもしれない。
「……って。急に迷惑だよね」
少しだけ明るくなった声も、次の瞬間には声のトーンが落ちる。言っても今日はクリスマス。人も多いだろうし、信康も今はなくても今から用事があるかもしれないと考え、これ以上迷惑をかけるのは良くないと思い、また気持ちが沈む。
「少し元気出たみたいだね。いいよ、行こうか」
本当にいいの?と、もう一度確認してくるひまりに信康は柔らかい笑顔を浮かべうんうんと頷くと、自分も行って見たかったからと話す。
店から出た二人。
並んで歩く姿に、羨望な視線が注がれる。周りから見たら美男美女のカップル以外、何者でもない。
手に握りしめた紙袋。
(家康…………)
二人は電車に乗り込んだ。