第266章 天邪鬼の愛〜真紅〜(8)
事情聴取を終えた家康。
急いでコートを羽織ると時計台に向かおうと、バス停に急ぐ。
「冬花ちゃん。凄い喜んでた。また、見てやってくれ」
本当は医者としてまだ安静にしてほしい所だが、ひまりが待っているかと思うと先を急かすように短い言葉を口にする。
「……分かった。でもまた、入院するって聞いたけど」
「あぁ。冬休み明けに予定している。また、勉強が遅れるから退院したらお前に見てほしいと頼まれたよ」
家康はそれを聞いて頷く。元々、家庭教師のバイトは父親から頼まれたものだった。ちゃんとその事をひまりに話そうと思い、バスに乗り込む。
待っているかの保証はどこにも無かった。その上、携帯電話は使用不可。ひまりが電源を切っている時点で望みも少ない。
(ひまり…………)
それでも……
それでも会いたい気持ちが上回る。
しかし、時計台に着き姿がない事を確認すると、家康は途方にくれた。ポケットの中を漁り、遊園地の二枚のチケットを取り出す。
(家に帰ったのか……それとも……)
必死に記憶を呼び起こして、他に交わした約束はないかと思い出すが…………
「……っ!!」
痛む左目がそれを邪魔する。
(遊園地……他にも何か約束を……)
何か重要な約束を交わした事だけは皮肉にも覚えている家康は、クリスマスツリーを見上げ、数秒後に走り出す。
時刻は午後五時。
辺りは暗くなり始め、駅前を煌びやかなイルミネーションが彩る。増えゆく寄り添うカップル達を掻き分け……
家康は遊園地を目指して駅へと急いだ。