第266章 天邪鬼の愛〜真紅〜(8)
ひまりが時計台から離れた頃、家康が運び込まれた徳川病院では……警察が事情を聞きに来ていた。
「寸前の所で避けたようで、命に別状はありません。当初は避けた時に頭を軽く打ったようで意識を失いましたが、今であれば事情聴取を受けられます」
徳川病院の院長であり、家康の父親はそう答えると、病室に案内する。コツコツと警察官二人が靴音を鳴らして病室に向かう。
「娘を助けて頂いて、本当にありがとうございました」
「ありがとう!お兄ちゃん!」
病室の中から聞こえてきた親子の声。
「いえ……」
頭に包帯を巻いた家康。丁寧に何度も頭を下げ自分に感謝する親子に、軽く頭を振った時だ。
コンコン。
聞こえたノック二つ。
「家康。今、いいか?」
病室のサイドテーブルに置かれたのは、少し形を崩したクリスマスプレゼントの小さな箱と、遊園地のチケット二枚、ぐしゃぐしゃに破損した携帯電話。イルカのストラップは無残な姿になり、トラックが踏みつけた衝撃を表していた。
親子二人は一人の警官と共に病室から出て行く。
「では、一度。事故の状況を説明してもらってもよろしいでしょう?」
「状況って言っても咄嗟のことで。飛び出した女の子にトラックが突っ込んで来たとしか」
「貴方はどうしてあそこに?」
「俺は時計台に向かって……!!!」
ハッとした家康。慌てて病室の時計を確認して、被っていた布団をめくる。
「父さん!携帯貸して!」
「ひまりちゃんなら、さっき連絡しようとした。どうやら電源が切れているようだ」
その言葉に家康は狼狽の色を隠せないでいると、父親は一旦落ち着いて先に事情聴取を受けるように話した。