第265章 天邪鬼の愛〜真紅〜(7)
時計台の下。
飾られたクリスマスツリーは昼間でも光り輝き、多くの恋人たちを魅了する。
「綺麗だねーっ。また、夜に見に来ようよ!」
「じゃぁ、まずは腹ごしらえして映画でも見に行くか!」
そんな約束を交わしてツリーの下から、次から次へと姿を消して行く。
(……ちょっと早く来すぎちゃった)
その様子を近くで見ていたひまりは時計台の時刻を確認して、持っていた紙袋をぎゅっと握りしめた。
(雪……降り始めちゃった……)
空を見上げればはらはらと地上に向かって降りて来る白い雪。
ひまりの身を包んでいた服装は、赤いニットにベージュのリボンベルト付きスカート。それは今朝届いた両親からのクリスマスプレゼント。上には真っ白なダッフルコートを羽織り、黒のショートブーツを履き、足元を少しでも温めた。
時計台は家康との待ち合わせ場所。あの後、実は何度か電話がかかって来たのだが、ひまりは出なかった。本当は今日来るのさえ悩んでいたのだが、今朝受信した一通のメール。
ーー待ってるから。
短いものだったが、心を動かした。今日こそちゃんと話をしよう。話を聞こう。そう準備しながら言い聞かせている内に待ち合わせより三十分より早く着いてしまったのだ。
(……本当は早く会いたい)
薄っすら瞼を落とせば、睫毛に雪が積もる。本音はそこにあった。電話に出れないぐらいショックでも、好きな気持ちは何一つ変わっていない。
一週間近く話さないだけで、
心は限界に近づいていた。