第265章 天邪鬼の愛〜真紅〜(7)
クリスマス当日。
厳しい風が吹き付け、空はどんよりと暗い雲。今にも雪が来そうで重い。
そんな空の下で動いた人影。
「おっ!信康!めかし込んで何処行くのさ??」
「ちょっとね。それよりじじ様のこと頼むよ。……夜には帰ってくるから」
「了解!!雪降りそうだから気をつけてな!」
翠と天は信康の出かけ先が分かっているのか、いないのか……玄関先でただにやにやと顔を見合わせて笑い、手を振った。
信康はマフラーを巻き、白い息を吐くと祠の前に移動。前髪をかきあげ隠れていた右目をさらけ出す。
(満開まであと少し……)
鏡の中で成長して行く不思議な花。
ここ数日、花は成長をやめ花弁はしおれ元気がない。
(やはり、心と繋がっているのか……)
信康はそう確信すると前髪を下ろして、鼻からゆっくり息を吸い込み、口から吐き出す。ぶわりと広がった白い息。それが寒さを物語り、まるで信康の心情さえも表していた。
ーー……25日、昼から空けといて。
ーー昼から?……うん!なら、待ち合わせ場所は時計台ね!
ーーまた、待ち合わせ?
ーー時計台のツリー見たいからっ!
(昼に時計台。……それが約束だったよな)
黄色の蕾だった花は、やがて薄い赤色へと変わり、今は真っ赤な色に近づく。
(……今、何を見ていたんだ)
そんな信康の様子を木の陰から見ていた、光秀。信康が去った後、祠に移動して鏡の中を覗きこむが……そこには自分の姿が映り込んだだけ。
薄っすらと降り始めた雪。
時計台の下に現れるのは……一体。