第60章 風待ち月(9)
各自分担して片付けを始める。洗い物を担当になった私は、洗剤が切れた為職員テントに向かった。
(あっ!秀吉先輩!)
珍しいく取り巻きがいない秀吉先輩を発見して、私は駆け寄る。
「珍しいですね!先輩が一人なんて」
冗談っぽく言うと、先輩はそれ嫌味か?と目尻を下げながら私のおでこを小突く。何でも、今からレクの準備に行くみたい。キャンプファイアー楽しみにしてます!と、言うと先輩は空を見上げ、
「雨降らないと良いけどな」
暗くなるのと同時。
少しずつ広がり始めた雲。
それを心配そうに先輩が見つめる横で、まだ片付けの最中だった事を思い出す。
「レクの準備!頑張って下さいね!」
失礼します!そう言って、軽く頭を下げた時……。
先輩は少し屈んで、私の顔を覗き込む。
「キャンプファイアーのダンス相手、もう決まってるのか?」
「へ?ダンス相手?ですか?」
それって決めとかないとダメなの?
てっきり出席番号か何かで並んで、順番に相手が変わっていくのかと思い込んでた。
「今年は最後の一曲だけ、相手を選べるようになったからな」
野外活動の案内には、その事がちゃんと書いてあったみたいで……。見落としていた私は、つい笑って誤魔化す。
すると先輩はやれやれと言った感じで、軽く息を吐いた後……
私の手を優しく包むように握って、
「なら、立候補していいか?」
ひまりのダンス相手に。
ドキッ。
「な、何で私なんかに///先輩なら、ダンスのお相手ならいくらでも……」
「……返事は後でいい」
ちゃんと考えとけよ。
私の手の甲にチュッと軽くキスをして、先輩は去って行った。
手に残った感触。
(きっと、私が相手いなさそうだったから、気を遣ってくれたのかも)
後でちゃんとお断りして、ゆっちゃん推ししないとね!
手にキスなんて……。
戦国プリンスって呼ばれている、先輩のイメージにピッタリ。
私は手の甲を軽く押さえた後、洗剤を貰いに急いだ。