第263章 天邪鬼の愛〜真紅〜(5)
それからも私はパタパタと動き回り、席に料理を運ぶ。
「お待たせしました、ホットコーヒーとパフェになります」
ゆっちゃん達が来てくれた事で、沈んでいた気持ちが軽くなった私は、本来の笑顔を取り戻す。今日、家康に電話しよう。ちゃんと話をしよう。そう決めて、バイト時間が残り五分になった時だった。
店内に入って来たお客さん。
生憎テーブルは満席で、慌てて入り口に向かう。
「いらっしゃいませ!お客様、何名様でしょうか?大変申し訳ありませんが、ただいま満席でしてこちらに名前を……」
「ママ!お客さんいっぱいだって!」
ゆったりとした動作で店内を見渡す髪の綺麗な女の人。その隣には小学三年ぐらいの女の子が立っていた。笑顔を添えながらそう言葉を掛ければ女の人の視線がこちらへと向く。
次の瞬間……
私は顔色を失う。
「三名よ。時間かかるかしら?」
ドクンッ!
その女性があの噂の女性だったからじゃない……勿論それもあったけど……
私の視線は違う所にあった。
カシャンッ!
落とした銀色のトレイ。
「ひまり!何でここに……」
女の人の背後に見えたお日様色の髪。家康の驚いた顔がすぐそこにあって……
「え?……家康くんお知り合い?」
女の人は私の台詞を奪った。
何で……
何で一緒にいるの。
何で……
一気に気分が悪くなる。
涙でぼやけかかった視界。
「ひまりちゃん!もう上がりの時間よ?……って、どうしたの!顔色が悪いわよ」
大学生の先輩に肩を叩かれるまで、
どうしていたか分からない。