第263章 天邪鬼の愛〜真紅〜(5)
そのメロディがいつもと違うように聞こえて……やっぱり寂しい時に聴くメロディは悲しく聴こえてしまう。
目を閉じれば浮かぶのは家康の顔。
でも、同時に玄関先で女の人に会釈する映像まで浮かんできて……やきもきする気持ちが胸いっぱいに広がって、慌ててオルゴールの蓋を閉じた。
「クリスマス……どうなっちゃうのかな……」
ぽすっと背中からベットに飛び込む。
今日は最後のバイトの日。その帰りにプレゼントの腕時計を買いに行く予定だった。
携帯を顔の前に持ち上げ、見つめたある一点。ゆらゆら揺れるお揃いのイルカのストラップ。家康もちゃんと付けてくれていた。
(最近、よく携帯弄ってたみたいだった。話している最中とか、前だったら絶対に触ったりしなかったのに……)
最近の様子を思い出せば思い出す程、増える不安要素。携帯の画面に指を滑らせ、メールボックスを開くけど……数秒後に閉じた。
(バイト行かなきゃ……)
私はベットから起き上がると、身支度を済ませる。お気に入りのリップもお気に入りのトリートーメントも、三つ葉のヘアピンも付けない私が鏡の間で眉を下げ、暗い表情を落とす。
久しぶりに見たそんな私。
それでも一人でいるより、賑やかなバイト先に行った方が気分が晴れると思った。
「いってきます……」
玄関を出て、家康の家がある方向に動きそうになる視線。それを慌ててうっすら白く色付いたコンクリートに落として、とぼとぼと私は歩き出す。
バイト先に着くと……
「ひまりちゃん、今日で最後だっけ?祝日でお客さん多いから頑張ろうねっ!」
「は、はいっ!」
更衣室に入るなり、大学生のバイトの先輩に背中をバシッと叩かれる。
レストランの制服に着替えてホールに出れば、そこは何かを考える時間なんて一切ないぐらい店内は満席で家族連れのお客さんで溢れていた。