第263章 天邪鬼の愛〜真紅〜(5)
クリマスイブの前日。
ここ数日、泣き腫らした瞳を擦り、私は眼を覚ます。ひんやりとした冷たい空気が布団を出ると肌にあたり、ぬくもりを求めてまた布団の中に戻った。
(そっか。今日から冬休み……)
布団の中から腕を伸ばして携帯を取ると、画面を開く。着信もメールもなし。
(結局、何も教えて貰えなかった)
話してくれるまで口聞かないって決めて、登校中も一言も私からは話さなかった。下校中、そんな状況になるのが辛くてバイトのシフトを増やしていく内に、一緒に帰らなくなって……気づいたら冬休み。
(今日もすごく冷えるなぁ……)
窓を開けると感じた寂しい風。それが吹き込んできて思わず自分で自分の両肩を抱く。分かってる。こんな事してたら駄目だって。分かってるのに……四六時中、家康の事を考えてるのに……ずっと避けてばっかり。
ううん。
家康もどこか私を避けてた。もしかしたら、追求されるのを避けたのかもしれない。
ーー徳川に後をつけた事、話したよ。でもあいつ。何にも言わなかった。
きっと何か事情がある筈だって、ゆっちゃんも言ってくれてる。私もそう思ってる……信じてるけど……。
ーーご主人さんが留守の時ばっかりなんだって!
ーーどことなく雰囲気がひまりに似ている人なんだって!
加速する噂。
噂するのは他のクラスの子達ばかりだった。そしてとうとう築城さんの耳にまで入ったみたいで、彼女なりに心配してくれたのか凄い剣幕で教室にやって来た。
その時に聞いた予備校のスケジュール。
家康が予備校って言って一緒に帰らなくなった半分以上の日数が嘘で……
私は勉強机に置いてある、オルゴールを無意識に手に取る。パカッと蓋を開けば、鳴り出すメロディ。