第262章 天邪鬼の愛〜真紅〜(4)家康様side
数日後の放課後___
ホームルームも終わり、俺は席を立つ。そのまま腕を伸ばして席の横にかけてある鞄を持つと、チラリと横目でひまりの席を見る。隣の席の神木と何やら親しげに話をしているひまり。明るい表情から一変して神妙な顔つきに変わる姿を目撃して、俺は足を進めた。
「そっかぁ。信康くん、お祖父さんと二人暮らしなんだ」
「……ひまり」
話の途中だろうがお構いなし。背後から名前を呼べばくるりと向いたきょとんとした顔。
「今日も予備校。政宗に頼んであるから」
「う、うん!分かった!」
どことなくぎこちない返事。
何かあったのかと思って口を開こうとすれば……
「何なら、俺が送って行こうか?」
神木が隣から口を挟んできた。俺がすぐさま断ると、「それは残念」と心底残念そうな顔をした神木。何でそんな顔をする必要があるのか文句を言おうとした時だ。
「ひまり〜っ!」
窓際の席に立っていた小春川がひまりの名前を呼ぶ。それに反応したひまりは鞄を持って席を立つと……
「……予備校。頑張ってね」
ふわりと笑いながらそう言って、小春川の元に。
今考えれば、この日からだった。ひまりの態度がおかしくなったのは。いや、その前からどこかぎこちない雰囲気はあった気がする。
せめて、
この時に気づいておけば……
「……待ってたわ。今日も主人がいなくて。さぁ、早く上がってちょうだい」
「……お邪魔します」
泣かせる事はなかったかもしれない。
違う……。
見栄なんか張らずに……予備校なんて嘘吐かずに、本当のことを話しておけば良かったと後から後悔した。