第262章 天邪鬼の愛〜真紅〜(4)家康様side
付き合って三ヶ月の朝だった。
隣で歩くひまりの表情は時折沈み、それでもどこか浮きだっていて、月ものの週でもあった為、俺は体調を気遣いながら、異変に気付くことなく登校。
学校に着いてから、最近、毎日の日課のように携帯のカレンダーを開いて予定を確認。
(今日の予定はなしか……)
テスト最終日。俺の中ではそれだけだった。
だからこそ……
昼休みに掛かってきた電話。
「今日、お願いできないかしら?」
「……分かりました。では、いつもの時間に」
予定を入れてしまった。
ひまりとの約束も大事な記念日も忘れて。そして、いつものように予備校だって嘘を吐いた俺にとうとう天罰が下った。
「何でっ!約束したのにっ!」
ドンッ!!
胸に押し付けられた鞄。
教室の床に染み込んだ雫。
「何で嘘なんか吐いたりしたのっ!!」
予備校じゃないのにっ!その言葉とその涙を見てやり場のない気持ちを閉じ込めるように、拳を握りつぶす。
その時に今日が記念日だって思い出したって無駄。次の日に、後をつけられていた事を小春川から聞いて知っても遅い。けれど忘れたくて忘れたわけじゃない。嘘を吐いたのにもそれなりの理由があった。
信じて貰えないだろうけど……
「ひっく……」
「……ごめん」
それでもまだ内緒にしたくて、
痛む左目を無視して俺は謝った。
走り去る背中。
追いかけることも出来ないまま……
「また、ぜひお願いするわ」
「先生。ありがとう!」
結局、俺は本当のことを話せないまま。
口を聞いて貰えないまま、終業式を迎えた。