第261章 天邪鬼の愛〜真紅〜(3)
でも、信じている気持ちのが大きくて……
(う……そ…………)
目の前の光景に、言葉を失うしかなかった。
予備校とは違う道を歩く家康。
そこからざわざわ胸が騒ぎ出して……
「あっちって確か、噂に聞いた団地がある方じゃないっ!」
家康は勘が鋭いからってゆっちゃんは言って、私達は用心して大分距離をとって後ろを歩いた。予備校とは反対方向。慣れた道を歩くように、人混みを掻き分け、人通りの少ない脇道に入ってゆく家康の背中。
(どうして嘘を吐いたの……)
そう心の中で問い掛けても、返事がある訳ない。見慣れない住宅を目にして、だんだん不安は募って行き……
ある一軒の家の前で立ち止まった家康を見て、ドクンと鼓動が嫌な音を立てる。
ピンポーン。
数秒後、開いた玄関。
出迎えたのは……
「……待ってたわ。今日も主人がいなくて。さぁ、早く上がってちょうだい」
白い清楚なワンピースとは対照的に、赤く塗られた唇。ふんわりと優しい雰囲気がどこか漂い、年齢は二十代後半ぐらいの綺麗な女性だった。
ガシャン。
閉まった扉。
軽く頭を下げて中に入って行った家康。
その一連の光景をまるで夢を見ているかのように、ぼんやりと見ていた私。言葉なんて何にも出てこなくて……
(………………)
心中でさえ声を失う。
やっと息継ぎができたのは、ゆっちゃんが呟いた一言を聞いた後。
「嘘……。あの徳川が……」
さっきの光景が夢でない事を、見間違えでもない事を教えてくれる。
「き、きっと何か事情があんのよっ!親戚の人とかもしれないしっ!」
私は左右に首を振る。今まで一度もそんな話は聞いた事はない。