第59章 風待ち月(8)
(家康様視点)
遡るあの日の放課後。
「徳川君。ちょっと話があるんだけど」
前に、聞き覚えのある台詞。
即座にその場で断ろうかと思った時。副部長に先に、告白ではなくひまりのことだと言われ、俺は目の色を変えた。
「ひまりのこと、って何?」
「意外とわかりやすい、反応するのね」
それともあの子限定とか?俺は冷やかしを無視して、話を急かす。
「気づいてる?姫、最近元気ないの?」
「……まぁ」
ここ数日、実は気になっていた。ひまりの様子が少し可笑しいのは。てっきり、黒板事件を引きずってるのかと思ってたけど。
「はっきりとは言わなかったけど。前から、 ちょくちょく呼び出されてたみたいよ」
徳川君のファンクラブの子達に。
それ絡みじゃない?
部活終了後。
政宗に用事が終わったらすぐに追いかけると、伝え……
「……ひまりに、何かした?」
築城がその下らないファンクラブを取り仕切ってると副部長から聞き、待ち伏せしていた。バスケ部の築城が体育館から出て来て早々、俺は何の説明もせずいきなり質問をぶつける。
すると、一瞬微かに動揺を見せたが平然とした顔で、
「何のこと?私は何も知らないわ?」
ひまりの真似事をするように首を傾げ笑うのを見て、睨みつける。
証拠はないし。
ひまり自身、何も言わない。
けど、確かこの前は階段で転けそうになってたって聞いたし、制服水浸しになったとか言って体操服着てたし。
昼休みもフラッと一人で、どっかに消えて。
「……あっそ。なら、良いけど」
もし、ひまりに何かしてる奴いたら言っといて。
「俺は、容赦しないからって」
それだけ言い残し、その場を後にした。
もし、俺のせいでひまりが何かされていたら……。
自分自身さえ許せない。