第256章 『一周年記念作品』学園祭♡一日目(後編)
グランド___
だんだん校門に向かって小さくなる背中。ひまりはその後ろ姿を見て、慌てて「落し物ですー!」と声をかけた。
「…………ひまりちゃん」
「あ!名前覚えてくれたんですか!」
「う、うん」
「これ!大事な万年筆!落し物箱に届いてましたよ!」
にっこり笑うひまりとは対照的に、差し出された万年筆を見て少し困り顔を浮かべ、自分の影を見つめた自称いっちゃん。
「ごめんなさい。実は……自分で落し物箱に入れたの」
「え???自分で???」
どうしてだろう?ひまりは理由が分からず小首を傾げれば、いっちゃんは「届けてくれてありがとう」と、礼を言って受け取った。
「新しいのを買おうか悩んでたの。……でもまた戻ってきたらインクを交換してまた大事に使おうと思ってたんだ」
「ご、ごめんなさい!私、てっきり探されてると思って……」
「ううん。やっぱり私には新しい筆よりこっちの方が大切だから……ちょっとホッとしてるの」
実は気になって帰り道も自然とトボトボ歩きになっていたと聞いて、ひまりは親切にして良かったことを知りホッと胸を撫で下ろす。
「今度こそ大事に使うね!よーし!書くぞーっ!」
「そう言えば……コンテスト中も何か書いてましたよね?」
その問いに元気よく頷いた自称いっちゃん。しかし、ひまりの背後から家康がこっちに向かってくるのを見てあたふたと慌て出す。
「ひまりちゃん!ありがとう!私、頑張るね!」
返事も聞かないまま走り出し、万年筆を大事そうに胸に抱え、まるで青春映画のワンシーンのように夕焼けに染まった秋空を見上げ全力疾走。