第58章 風待ち月(7)
今日は自然体験の日。
リュックを背中にひたすらハイキングコースを歩き、山頂を目指す。
自然の中の空気を堪能して、最初は皆んなノリノリだった。けど、緩やかな山道が段々険しくなり額に汗が浮かび出す。
「何で、担任は優雅に山頂に待機なワケ」
「ふふっ。まさか自家用ヘリで移動なんて、聞いた時はビックリしたけどね?」
何処までもセレブな先生に、ほんと感服。
「ひまり、いつでも負ぶってやる。しんどくなったら、言え」
「ありがとう!でも大丈夫!体力には自信あるから!」
「政宗、なら私を負ぶってよ!もうエライ!」
ゆっちゃんは大きなリュックを、肩から下げ政宗の肩に手を置く。人の倍ぐらいにパンパン詰まったリュック。
私は気になって、中身を聞くと……。
「秀吉先輩とのラブラブグッズが詰まってるに、決まってるじゃん!」
「ラブラブグッズ!?」
驚いて聞き返すと、ゆっちゃんはふふふっと鼻で笑いながら、
「お揃いのカッパに、先輩が怪我した時用のバンソーコに、山頂で一緒に飲みたい紅茶セット一式に〜〜」
「……イタイ女」
ボソッと呟く家康の頭に、バシッとゆっちゃんの手が飛ぶ。
そんな時、背後から黄色い声が沢山聞こえてきて……
「プリンス様〜。山頂で一緒に、ティータイムしましょう〜」
「私、バンソーコ持ってますから怪我したら言って下さいね」
「私は〜〜」
取り巻きの中心に居た秀吉先輩。
ゆっちゃんが元気をなくすのを見て、私は励ます。
「ゆっちゃん!元気出して!まだ、河童もあるし!キャンプファイヤーもあるし!」
「この青空じゃ雨なんか。……政宗、今すぐ負ぶって」
「その辺りに倒れてろ。運良くいけば、秀吉先輩に拾って貰えるかもしれねえ」
二人の会話面白い。
案外いいコンビかも。
「呑気に笑ってるとコケるよ」
「だいじょ……っ!わぁっ!」
パシッ。
「……ドジ。言ってる側から」
石に躓きそうになった私の手を、咄嗟に掴んでくれた家康。
呆れた声。
でも、繋がれた手は優しかった。
「この辺り、足場悪いから」
「う、うん。ごめんねっ。気をつける」
私はもう大丈夫!と言って手をそっと離す。最近、一つだけ気づいたこと。
家康の顔が何故か時々、真っ直ぐ見れない時がある。
それに、戸惑う自分がいた。