第250章 天邪鬼の愛〜中紅花〜最終章
好きな人と明日会える。
またすぐに会える。
そう思っても、分かっていても、
別れ際は切ないもの。
周囲に同じ造りの棟が立ち並ぶ団地、公団住宅。広い敷地にゆったりと建てられ、緑などの植栽が豊かで採光や通風などの条件も優れた場所。同じ団地内の棟と棟との間には小さな公園あり、昼間であれば活気に溢れていただろう。今は静けさに溢れた公園に一番近い一棟の前で、停車した青いバイク。
「じゃあな。……また、手伝いに来いよ」
「はいはい。デートじゃなくて、手伝いねっ!い、つ、で、も!」
可愛げのない言い方をして、背中を向けた弓乃。「ムードもへったくれもないんだから……」風の音に簡単にかき消されるような声で呟くと、後ろ髪を引かれる思いで階段を上ってゆく。
そして自宅がある二階について、玄関扉に鍵を差し込むと……
ピロンッ。
届いたメール。
『デート楽しかったぜ。……隈なんざ作る暇あんなら早く寝ろよ』
メールを見た弓乃。慌てて道路の方を見下ろす。街灯の明かりに照らされた、青いバイク。政宗が唇に何かを寄せるのが見え……
弓乃は腰が抜けたようにヘナヘナとその場にぺたりと座り込み……
(いちいち格好良すぎなのよ///………ばか)
真似するように、携帯に唇を寄せた。
バイクが走り去る音が聞こえた瞬間、ガチャッ……。鍵が差し込まれたままの扉が開く。
「姉ちゃん、何やってんのー?」
「兄ちゃん!玄関前にタコみたいな顔した姉ちゃんがいるー!」
そのメールを保護した弓乃は立ち上がり、家の中に逃げ込んだ双子の弟を追いかけながら表情は終始緩みっぱなし。
『……私も。デート楽しかった』
メールを返信したのは時計の針が十二時を指した頃だった。