第249章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(36)時を繫ぐルージュ編
そろそろ帰らないと。
そんな雰囲気を静寂が運んできて……私の口が意図なく動く。
「……私の……どこが好き?」
聞いた途端に恥ずかしくなる自分。胸の中で「深い意味はないんだよ」って、もぞもぞしていると後ろ髪がスッと撫でられて……
私の体はジッとして動かなくなる。
「……何?急に……修学旅行の忘れたワケ?」
「忘れてないよ。……ただ、あの時とはまた変わってるのかなって……ちょっと思って」
ただ、無性に聴きたくなった。
けど、掻き上げられた髪の隙間から届いたのは甘い声じゃなくて……
「……………教えない」
数秒後に届いた、絡みつくような粘っこさを帯びた声。
そのまま髪を耳にかけて頬がぶつかるぐらい、私の体をすっぽり覆った家康。
(ふふっ。……頬っぺた熱い)
言葉以外でもちゃんと好きを届けてくれて、本当に大事にしてくれる。
私の好きな人は、相変わらず天邪鬼。
だけど……きっと、それが家康の愛情。
「なら、私も秘密」
そんな所が大好きだよって。
月の満ち欠けみたいに、
いっぱいになった満月になるまでは。
最後にもう一度、見上げた三日月。
(時が違っても……)
ベビーピンク。
コーラルピンク。
ローズピンク。
ルージュの色が少しずつ違うように、
好きな人への想いの形はさまざま。
伝えかたも、受け取りかたもそれぞれ違っても……そこには、きっと「好き」が詰まってる。
真紅、紅赤、淡紅。
その色に染まった想いも、
きっと何処かに……
(クリスマスのデートの時は、限定色にしようかな?)
手を繋いだ帰り道。
一歩、一歩。
早めたり遅めたりしながら……
時間を忘れるぐらい、
二人のスピードで灰色の煉瓦道を歩いた。
時を繫ぐルージュ編(完)