第249章 天邪鬼の愛〜中紅花〜(36)時を繫ぐルージュ編
家康の愛情は
「いっぱい」が詰まってる。
思い出みたいに。
分かりにくいけど、分かりやすくて。
遠回りだけど、近くにあって。
あの時、あの日、あの瞬間。
振り返るとまた違ったり……
この時、この日、この瞬間。
気づく時も、気づかせてくれる時もある。
ここに連れて来てくれた理由を私が知るのは帰り道。来週の二ヶ月記念日。部活の後、何処か出かけたいなって呟けば、予備校と他にも用事があると申し訳なさそうに話す家康の声を聞いて、もしかしてその為に?……に、気づく。
だから、今の私は知らない。
「今夜は三日月だね」
南の空を見上げ、もうすぐ消えてしまいそうな月に向かって呟くと……
「……もうすぐ新月だからね」
私の手がフェンスから離れる。
「俺が寒いから。……温まらせて」
「……家康のがあったかいよ?」
まるで「逃さない」って言ってるみたいに強い力で抱き締められて、ちょっと苦しい筈なのに……安心出来て、嬉しくて、私は少し身体を捩らせ後ろ向きから正面になる。
「こっちのがあったかい」
「こっち向くと、俺にイタズラされるけど」
パーカーの襟元から垂れた二本の紐をつかむようにきゅっとしがみ付くと、その直後に掬い上げられた顎。
「この色がひまりには、一番似合う。……美味しそうだし」
「美味しそうって///食べ物じゃな……ん……」
ベビーピンクに染まった唇。
私のちょっとした反論が言い終わる前に、柔らかい感触に遮られ、言おうとしていた言葉が何か忘れるぐらいキスが続く。
冷たい風さえも熱いぐらい頬をが上気すると、家康の唇は静かに離れてゆく……
「本当に食べられたみたい///」
「本当に食べたんだけど」
かと思ったら、最後にペロッと舐められるようなキス。ご馳走様のお決まり台詞も加わって……
私はかぁっ///と熱くなる顔を、
家康の胸の中に隠す。